マガジン

2021.11.22
「田力米」熱血田んぼプロ集団に、米づくりの今を聞く

「田」に「力」と書いて「男」になり、4つの個性が互いの足りない部分を補い合う熱血田んぼプロ集団。田んぼの力を信じ、田んぼから新たな価値を創造する男たちに、米づくりの今を聞いた。

愛媛県松山市から高速を走ること約1時間。西予市宇和町は一年を通じて寒暖差が激しい気候と、水や土質に恵まれていたことから二千年以上も前から米づくりが行われてきた地域だ。そんな宇和町で2010年に「やる気農家倶楽部」として4人の若手農家が集まった。彼らは、代々この地で営んできた農業を継いだ者、念願の農家となった者など経歴も様々かつ、米づくりへのアプローチもそれぞれ。声を揃えて「共通点は酒が好きなことだけ」と豪快に笑うが、根底にあるのは宇和の米のおいしさをたくさんの人に知ってもらいたい、届けたいという気持ちだ。2016年には田力本願株式会社を設立。みかんジュースの搾りかすを利用したボカシ(肥料)の開発や運用、4人の個性を活かしブランド展開している「田力米(たりきまい)」、そしてその米を使った日本酒「田力」の仕込みなど、着実にその名を全国区に広げている。

稲刈りの時期になると見られる、一面黄金色に色づいた田んぼの景色は圧巻の美しさである
タグに生産者名が入った2合サイズの田力米。甘みや香り、食感、ツヤ、粒感など個性の異なる品種が揃う

また、新品種への取り組みも積極的で、西日本を中心に栽培されている”にこまる“にもいち早く取り組み、2018年には日本おにぎり協会が実施する「おにぎり食味会」で井上裕也さんの”にこまる“が1位入選を果たした。また、翌年には愛媛県がいま最も力を注ぐブランド米”ひめの凜“で、梶原雅嗣さんが「第21回米・食味分析鑑定コンクール」において金賞を受賞。「試食してみると食べたことがないような香りで、ぜひ栽培してみたいと他のメンバーを説得した」と梶原さん。しかしその後、試験栽培で収穫時には手応えを感じていた米の食味が平均以下で、大きな壁にぶち当たった。「肥料をどんどん与えると暴れるので、生育は進むけれど味は落ちる。作り手の技量が問われる品種だ」と河野昌博さん。メンバー4人は、水と油のようなまったく混ざり合わない個性の異なる存在。「ただ、それぞれを補い合える高い能力がある」と井上裕也さんが言うように、その塩梅の難しさを改善し成功に持ち込めたのも、全員の知識と技術を集結させることができたからだった。梶原さんの ”ひめの凜“は、食味・味度(鮮度を保つための指標)ともに最高水準を記録し、お米のプロをも唸らせた。おにぎりで食べてみるとその上品な香りがわかり、冷めてもおいしいと評判だ。

田力米は5kg・2kg・1kg・2合4つのサイズで展開(写真は左から5kg、2kg、2合)。
品種はコシヒカリ、にこまる、ミルキークイーン、松山三井、ひめの凜

「今は生活者の嗜好が多様化してきたので、珍しい品種やパッケージで女性が手にとってくれるかが鍵になります」と田力本願の代表・中野 聡さんは市場を分析。田力本願では、コシヒカリ、にこまる、ミルキークイーン、松山三井と4人それぞれがおすすめする品種を食べきりサイズのオリジナル米袋に入れて展開。”男くらべ“としてセットにすることで、単品で販売するよりも販売数を伸ばすことに成功した。また、パンの好みよろしく、ご飯も味わいや食感の違いが際立つように、いくつかの品種をブレンドして究極の食味を生み出すという流れもある。こうした時代の流れに合った自由でユニークな発想と真摯な姿勢で、米づくりから情報発信、販売までを行う4人の精鋭たち。店頭に並ぶ「顔が見えるお米たち」にぜひ会いにきてほしい。