- 2021.12.03
- 「発酵」福島徹(福島屋会長)×村上友美(酵料理家) SPECIAL対談
発酵食品は栄養の宝庫と言われています。また、発酵をかける前と後では中身が全く違ったものになるほどのすごいパワーを秘めています。先人のさまざまな思考錯誤と創意工夫によって生まれた発酵食品を体に取り入れることについて、発酵料理教室を主宰する村上友美さんと、全国の発酵の現場を歩き回る「福島屋」会長の福島 徹さんに話をうかがいました。
福島:もとは一般的な料理教室をされていたと聞きましたが、どういうきっかけで発酵にフォーカスしていこうと思われたのですか。
村上:生徒さんが求める「美味しさ」と日々すこやかでいるための「健康」をどう伝えられるのかと模索していたのですが、約5年前に福岡へ麹作りを学びに行ったのがきっかけで、美味しさと健康のバランスを取るには発酵食がぴったりだ、と気付いたんです。自分で麹作りや発酵料理を始めたら、微生物が生きていることをすごく感じるようになって、どんどんハマってしまって。
福島:日本の伝統的食文化、発酵食という自然に近いものを食べていると、気持ちも体も良い状態になりますね。私は30歳半ばにスーパーの2号店を出したのですが、その時に大きな挫折を味わいました。体のコンディションは悪くなっちゃうし、精神的にもボロボロ。バランスを整えていかなきゃとなった時に実践したのが、発酵食と玄米と単純なんですけど、よく噛むことだったんだよね。
村上:究極はお味噌汁と玄米とお漬物。その3点セットをベースにして、あとは嗜好品という考え方ですね。難しい料理ができなくても、忙しくてもそれさえ揃っていれば良くて。そう考えると日々のお料理を気負わなくていいでしょう。
福島:バランスの取れた健康的な食生活というのは一生のテーマですが、これは一朝一夕では成り立ちませんね。
村上:発酵食は生活の基本にしていただくといいなと思っていて、ダイエットのためや美容のために◯◯を食べるとか、情報が溢れる世の中だから”すぐに結果が出ること“に惑わされがちですが、そういうことじゃない。習慣にしてもらうことに意義があるんです。
福島:「食事で治らない病気は医者でも治せない」という古代ギリシャの医師、ヒポクラテスの有名な言葉がありますね。食事はそれほど大切なものだということ。我々は医師ではないけれど、日常食の質についてきちんと考えることが、未来の自分をつくることにつながると思っています。
村上さんは発酵食の商品開発もしているとか?
村上:愛媛県産米と黒麹菌だけでつくる、黒麹甘酒を販売しています。

福島:麹菌の選定だとか、そういうのも結構難しいですか?
村上:沖縄の泡盛や一部の焼酎に使われる黒麹菌を使っています。全国に約7社の種麹屋さんがあって、麹菌の状態や自分の好みに合わせて菌を変えたりしています。見た目も黒っぽかったりグレーだったり。その時々で微妙に違うのですが、定期購入のお客様はみなさんすんなり受け入れてくださって安堵しました。

福島:自分のコンディションが反映されますから精神も鍛えなきゃいけないですね。皆さんの健康を支えていらっしゃるからね。
村上:そうなんです。ある本を読んだ時に、普段絶対にカビが生えないんだけど、凄く疲れた時やスタッフが失恋してボロボロだった時に麹にカビが生えた、なんて話が書いてあって、まさしく。
うちの黒麹甘酒は、大量生産はできませんがその分丁寧に心を込めて作っています。生きている麹の力、微生物のエネルギーを体感していただければ。
福島:ご家庭に当たり前に麹や糠床があるようになるといいな、と思うんです。そういう環境って幸せの象徴じゃないですか。いい菌が家の中にいるようになりますから。
村上:本物の発酵食は原材料がとてもシンプルで、美味しくて安心して食べられることが魅力です。今や塩麹や醤油麹などがスーパーでも買える時代。まずはいつもの調味料を発酵調味料に置き換えるなど簡単な工夫で、いまの生活に無理なく発酵食品が取り入れられるのではないかと思います。
村上友美 (むらかみともみ)
愛媛県伯方島出身。松山市で発酵をテーマにしたオンライン料理教室「Kitchen studioたべものさし」を主宰し、黒麹甘酒や発酵調味料のオリジナルブランド「1day1spoon」も手掛ける発酵料理家。 https://tabemonosashi.com
福島 徹 (ふくしまとおる)
“食と農を商でつなぐ”という方針で全国から選りすぐりの商品を集め、安売りしない、チラシを撒かない、という独自の経営で創業から黒字経営を続ける、東京都羽村市のスーパー「福島屋」創業者。「THE CENTRAL MARKET」のプロデュースを行う。