- 2022.01.28
- めいどのみやげ【その三】料理人 三上奈緒さん
【その三】料理人 三上奈緒さん
誰もが一度は考えたことがあるだろう、
明日世界が終わるとしたら何を食べたい?
そんな究極のメニューを“めいどのみやげ”と ここでは呼ぶこととし、
その人をつくってきた「食遍歴」を探ります。

お店など固定の拠点をもたず、風に吹かれるようにご縁のある土地に出向きその地の食材を使った料理を振る舞う、旅する料理人・三上奈緒さん。
東京で生まれ育った三上さんは、小学校の栄養士を経てフランスで一年、帰国後東京のフレンチレストランで、そしてアメリカで”最も予約の取れないオーガニックレストラン”と称されるカリフォルニアの『シェ・パニーズ』で約三ヵ月の経験を積んだ。
現在のスタイルにたどり着いたきっかけは、実は愛媛県に足を運んだことだった。
「愛媛で食事会をしませんか?」と言われ軽い気持ちで足を運んだ際に、せっかくならと生産者の元を訪問。
実際に畑を訪れ農家と対話する食材集めから始まり、ポップアップレストランでは生産者も一緒に食卓を囲んだ。
それがきっかけで、「食材が生まれる現場についてもっと知りたいし、もっとたくさんの人にその背景を伝えたい。生産者さん自身にも愛情こめて育てたものが食べられる現場を見てもらいたい」と思うようになった。
その日から人から人へ、そのもち前のフットワークの軽さとコミュニケーション力で各地に飛び込んでいった。
ちなみに、子供の頃の食生活について聞くと「好き嫌いは特になかった食いしん坊。揚げ物や焼き魚に添えてあるようなレモンまで、かじっていました」とのこと。
そんな美味しいものを知り尽くした三上さんにとっての『めいどのみやげ』は「お母さんの握ったおにぎり」。
「コンビニのおにぎりもお米と梅干しという、同じ食材でできているけれどそこに感動はないでしょう? やはり “誰かが握った”というところに価値と温かみがあると思うんです」と三上さん。
昼用にと作り置いてくれたおにぎりが大皿にぎゅっと並べられている時、運動会の家族弁当にたくさんのおにぎりがタッパーに詰まっている時、二つ三つ遠足に持たせてくれた時、この上ない幸せを感じたそうだ。
中でも究極のおにぎりは、具材はちょっと甘めの梅干しで、海苔を巻いてから少し時間が経ってご飯としっとり馴染んだ頃合いの三角おにぎり。
それはお母さんの優しさの形。おかずはほうれん草とベーコンのソテーや、人参とたらこの和え物とか、ピーマンえのきハムチーズ卵の和えたものなど手間をかけたもの。卵やきは毎日入る。
お弁当を包んだバンダナを解くとおにぎりがごろりと飛び出てくる瞬間を思い出すだけで、ふと笑みがこぼれてしまうのだ。
三上奈緒(みかみなお)
旅する料理人。東京農業大学卒。日本各地にて「顔の見える食卓作り」をすることを目指し、自身の目で見て肌で感じたものを伝える。
また焚き火を囲み、自然の恵みを料理して、一つの食卓を囲むことから未来を想像する『Around the fire プロジェクト』開始。
イラスト:山森めぐみ
漫画家・イラストレーター。愛媛県西予市出身。
双子の姉の方。近刊『いつだってごはんのこと。』