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2022.07.30
めいどのみやげ【その九】ロカンダ デル クオーレ 青江博さん

誰もが一度は考えたことがあるだろう、明日世界が終わるとしたら何を食べたい?
そんな究極のメニューを“めいどのみやげ”とここでは呼ぶこととし、その人をつくってきた「食遍歴」を探ります。

愛媛県東温市でイタリア料理店を始めて今年の9月で15年目。本場イタリアで学んだ料理や文化を、ここ愛媛県にも伝えたい。そしてこの地の食材の豊かさを地元の方達にもっと知って欲しいと尽力してきた青江博さん。取材中にも小学生がひとり、イタリアの焼き菓子を買いに立ち寄ったりするように、季節ごとのイベントを通じて地域住人や生産者たちとの関わりもより密接になってきた。農家さんから「この野菜はどうですか?」や「どんな野菜を使ってみたい?」などの提案も増えているのだとか。

そして現在ではイタリアの大手オリーブオイルメーカー「オリタリア」のアンバサダーを務めインスタグラムでレシピを提供したり、テーブルには数種のオイルを置いて、お客さんにそれぞれの違いを自由に味わってもらうように。店内も改装し、よりオープンなキッチンにすることで作る過程を間近で見られるようになった。限られた座席を予約して来てくれるプロセスや、その日のお客様ひとりひとりの気持ちやシチュエーションを大切にしながら、食文化を通じて日本とイタリアの架け橋として邁進している。

そんな食を極めた青江さんがめいどのみやげに選ぶのは、イタリアン…ではなく「家族が握るおにぎり」。その原風景にあるのはお母さんのおにぎりなのだそう。「ハンバーグを作るとボロボロになってしまうくらい料理が苦手だった母も、一生懸命おにぎりを作ってくれていました。形を見れば誰が握ったかすぐ分かってしまうくらいいびつなものでしたが、それが愛おしくて」と青江さん。元々6個くらいは一度にぺろりと食べてしまうというくらい、お米が好きなこともあるが、ここ愛媛に移住し奥様のご実家が兼業農家だったこともありさらにご飯が好きになった。とくに奥様の 握るおむすびは固すぎずやわらかすぎず、絶妙なほぐれ具合なのだそうだ。味は塩か梅干しなどシンプルなものがベスト。「忙しすぎて食事を忘れて仕事に没頭してしまうことがあるんです。そんな時に『何が食べたい?』と声をかけてくれたり、そっとおにぎりを差し入れしてくれるんです。そんな妻や娘の握ってくれるおにぎりは、ただのおにぎりではない握り手の愛情が一番の美味しさの決め手だと思っています」。相手を想う気持ちが一番のエッセンス。そのモットーは青江さんと店を訪れるお客さんとの関係性も例外ではない。

青江博(あおえひろ)
山口県生まれ、19歳で食の世界に入り20代前半にイタリアに渡り各地のレストランで修行しながら、郷土料理、家庭の味を学ぶ。帰国後都内や大阪でシェフを務めたのち、愛媛県東温市に移住し2008年自宅敷地内に「Locanda del cuore(ロカンダ デル クオーレ)」をオープンする。以降、県内外問わずイタリア食、芸術文化関連のイベントに出店、企画もライフワークとする。

イラスト:山森めぐみ
漫画家・イラストレーター。愛媛県西予市出身。
双子の姉の方。新刊『憑きそい』発売中