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2021.12.27
めいどのみやげ 【その二】 小説家 早見和真さん

【その二】小説家 早見和真さん
誰もが一度は考えたことがあるだろう、
明日世界が終わるとしたら何を食べたい?
そんな究極のメニューを“めいどのみやげ”と ここでは呼ぶこととし、
その人をつくってきた「食遍歴」を探ります。

「小学校の頃は一食4合食べるのが普通。米を食うという作業でまた腹が減るという始末でした」
と、のっけから驚きの発言。小学校6年生の時点で身長170センチに85キロという、
現在の早見和真さんからは想像もできない、貫禄のある体格で、
深夜に両親が「お米代が足りない」と深刻な話し合いをしている場面に出くわすほどだったそう。
その一方で、「緑のものは一切食べない」という極端な偏食も。
野菜はもちろん、ワサビ、豆、さらにはその色というだけでメロンソーダも受け付けなかったというから、その頑固さは筋金入りだ。
「全然おいしくないし、虫じゃないんだからと、
緑のもの嫌いは30歳くらいまで続きましたが、ある日突然美味しいと感じるように。
今でも“早見さんの好き嫌いは分からない“と周りからは言われますが(笑)、
自分からしたら今はかなり色々食べるようになりました。
偏食の子どもをもつ親御さんから、相談を受けたりしますが、
どうせそのうち自分から食べるようになりますよと答えています」と笑う。
そんな早見さんの現在の食事は1日一食。執筆に集中している時は、
夜だけが唯一の食事の楽しみだからこそ、その一食にかける思いはかなりのものだ。

そんな早見さんの『めいどのみやげ』は
「『くるま寿司』のコウジと、『寿司いの』のいのっちが握る寿司。
明日世界が終わるとしても、あの二人ならきっと握ってくれるから」とのこと。
それは食におけるこの二人の志の高さと、そこにかける努力を傍で見てきたからこそ。
若くしてミシュランを取得したり、 愛媛の食材を掘り起こし、
その美味しさを伝えようとする板前たちの心意気を応援したいという気持ちがある。
「中島や二神島で獲れるウニは感動の美味しさだった。」
地元の人ですら知らなかったそれを教えてくれたのが、まさしく彼らだったそうだ。
「とは言いつつも、食事は誰と食べるかが一番大事。
気のおけない仲間と、笑い合いながら最後の食事を楽しみたい」
と、食を楽しむ術は、料理だけにあらずという本心も最後に覗かせてくれた。

早見和真(はやみかずまさ)
横浜市出身。2016年に愛媛県に移住。
「イノセント・デイズ」、愛媛県を舞台にした創作童話「かなしきデブ猫ちゃん」
「ザ・ロイヤルファミリー」「店長がバカすぎて」など作品多数。
最新刊は「笑うマトリョーシカ」(2021年11月5日発刊)。

イラスト:山森めぐみ
漫画家・イラストレーター。愛媛県西予市出身、
双子の姉の方。近刊『いつだってごはんのこと。』