マガジン

2022.08.31
めいどのみやげ 【その十】RICO SWEETS & SUPPLY CO. 小林詩子

 愛媛県松山市に生まれ、ご実家が老舗料理店だったこともあり、小さな頃から食に関する話題はいつも身近にあったという小林詩子さん。中でもお菓子づくりの楽しさを教えてくれたのは、忙しい家業の合間を縫って手づくりしてくれたお母さんだった。幼稚園時代から一緒につくらせてくれ、社会人になってからもお料理教室や菓子づくり教室に通う日々。そんな中で、「そんなに好きならば仕事にしてみれば?」という後押しもあり一念発起。辻料理専門学校の門を叩き、ついにはフランス校にまで進学。本場のフランス菓子を学んだ。帰国後は都内でいくつかの会員制レストランやホテルのパティシエとしての経験を積み、松山へ帰郷。2006年から注文販売のみのスイーツ店を、そして2014年にはロープウェー街にカフェをオープン。保存料などを使用せず、愛媛県産の旬の素材を中心に味はもちろん目にも楽しい心躍るフランス菓子を提供している。

 人生のほとんどを食とどっぷり過ごしていると言っても過言ではない、小林さんがめいどのみやげに選んだのは「レッドベルベットケーキ」。日本ではあまり馴染みがないが、アメリカでは定番中の定番と言っても過言でもないケーキで、映画やドラマにも度々登場する。『SEX AND THE CITY』でサラ・ジェシカ・パーカーが食べていたことから、日本で大ブームを巻き起こしたことも。深紅のスポンジとバタークリームを何層にも重ねたケーキで、断面のインパクトも大だ。元々はカカオの色素でその色を表現していたそうだが、現在では食紅を用いてつくられることが多いそう。「アメリカに行った時に、どの店でもいろんなスイーツの中に自然に並んでいたんです。ビーガンやグルテンフリーなどが普通のお菓子と並列で選べるショーケースに、このスタイルでいいんだというヒントをもらったような気もした」と小林さん。現在のRICO SWEETS &SUPPLY CO.のショーケースはまさにそう。足を運んだその時々に一期一会の出会いがあるスイーツが並んでいる。最近ではバレンタイン時期になると着色料の代わりにビーツの色素を使ったレッドベルベットケーキも登場。それを見た海外のお客さんは、普段はダイエットなど気にするそうだが「レッドベルベットケーキだけは別よ」と興奮を隠し切れない様子だったそうだ。「明日世界が終わるなら、最後は体に良いとか何も気にせずに、食紅で口の中を真っ赤に染めながらレッドベルベットケーキを食べます。ときめくモノに心を委ねることは大切でしょ?」と笑う小林さん。そんな彼女が作るスイーツだからこそ、たくさんの人を日々ときめかせているのだろう。

小林詩子(こばやしうたこ)
愛媛県松山市生まれ。本場フランスで菓子を学び、東京でパティシエとしての経験を積んだのち、2006年よりRICO SWEETS & SUPPLY CO.をスタートさせる。現在はロープウェー街の店舗での販売はもちろん、焼菓子でイベント出店なども行う。手づくり無添加にこだわり、最近ではグルテンフリー商品なども多く手がけている。

イラスト:山森めぐみ
漫画家・イラストレーター。愛媛県西予市出身。
双子の姉の方。新刊『憑きそい』発売中