- 2022.05.25
- 島の音、土の声【第七回】
【第七回】おいしい意識
くるぞくるぞ……連載でいつかぶち当たると思っていた難問がついに来てしまいました。般若心経、無眼耳鼻舌身意の「い」です。お遍路でもおなじみの弘法大師・空海は、五感にさらに「意識」が加わった6つ、「六大」で世界が構成されていると説きました。そもそも舌の上で、味蕾(みらい)に乗っかった食べ物が「おいしい」と感じられるのは、意識の作用でありましょう。ん?いやちょっと待て。無意識に感じているのかな。あれ、意識って何だったっけ?
「つりにいこうやー」と誘われ、小1の息子とたびたび釣りに行きます。エサとなるエビや貝を波止場に置くやいなや、すぐさまやってくるハエ。あれが不思議でたまりません。海にハエ。さっきまでどこに居た?「オイシソウダナ」と、どこからともなくやってくる彼らには、「意識」というものがあるのでしょうか。一方、海の中の魚。エサや、時には食べ物ですらないニセ物の疑似餌にもひっかかってしまいます。彼らはどうなのかな。
わが家には1歳半のヤギがいます。女の子です。おなかすいた、いっしょにいよう、せなかかいて。草食動物なので様々な植物の葉っぱを食べるのですが、その日の気分まかせで選り好んで食べるし、好き嫌いもある。メェー。意志が伝わってきます。
先日、周防大島の道端を歩いていると、やけにピーピー、と音がして「どこからかな」と辺りを見回しました。するとまさかの場所、ガードレールの支柱が破れ、その穴の中に鳥の子どもたちが居たのです。覗き込んだとき僕が親に見えたのか、ヒナたちがピーピー鳴いて口を開けていました。頭上の建物の上では、親鳥がピョロピョロ何かをしゃべっています。僕がその場を離れると親がその穴に入っていき、また出ていきました。親はヒナたちが「おいしい」と思うご馳走を運んで、口から出して渡したのでしょう。この親心とは一体。
それにしても、この巣は雨が降ったらどうなるんだろう。僕にも母性が芽生えてきました。
中村明珍(なかむらみょうちん)
1978年東京生まれ。2013年に東京から山口・周防大島に移り住む。
島の農産物の通販、オンライン配信やイベント企画も手がける。
2021年ミシマ社より『ダンス・イン・ザ・ファーム〜周防大島で坊主と農家と他いろいろ』を刊行。
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