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2022.07.30
島の音、土の声【第九回】

【第九回】じりじりカサカサ

水がない。田んぼを始めてこれで4回目か。植えるか植えないかの瀬戸際の夏、梅雨明けはずいぶん早く、6月に猛暑日が続いたのは2022年が観測史上初だそうです。

これまで、水がないために田植えを諦めたことが何度かありました。その年は当然収穫がありません。またある年は川から直接水が取れる別の田んぼを紹介してもらって、苗を持って引っ越ししました。うるおいの肌ならぬ田んぼにありがたさがこみ上げました。

ここは島なので、大きな川がなく水不足になる傾向があります。加えて僕の田は水路の一番下流あたり、 上流の田んぼから順番に皆さん水を取っていきます。誰もが欲しい水。こんなとき「自分だけ一人勝ち」みたいな感性はダメだとわかります。普段から仲良くしていないといけないのです。

今年は水がないなりに耕し、代掻きの作業をやってみたものの泥ではなく見た目はほぼ「畑」。ここまでカサカサ状態なのは初めてでびっくりしました。機械で 田植えをしてみるとカサカサの土に苗が刺さらずただ転がるだけ。仕方がないので手で苗を押し込んでみると、土の底の方で、かすかに水が感じられました。次の日に見に行くと転がった苗はしおれています。水が大好きな稲。

そんななかでも中2の娘に「田んぼ手伝って」というと耕耘機を操って手伝ってくれ、小1の息子は「た うえする!」と苗を取って一人で勝手に作業を展開。やけにスムーズなのは、毎年小学校で田植えの授業があることに由来しています。

経済的に考えると、昨今のこの状況で米を作るのは「意味がない」、はたまた「赤字」となります。ですが、子どもたちとのこういった体験はプライスレス。儲かるか儲からないか、よりも広がる価値を感じてやみません。それが成り立つ前提には「農地を使い続けている」人が必要です。田畑として使い続けなければ、あっという間に藪や森になってしまうし、戻すのには大変な時間と労力がかかります。

そんなわけで誰かが食品を買うときには、応援の手が自然と乗っかっていることになります。その手が“ かゆいところ” に届いてくれるのです。

中村明珍(なかむらみょうちん)
1978年東京生まれ。2013年に東京から山口・周防大島に移り住む。
島の農産物の通販、オンライン配信やイベント企画も手がける。
2021年ミシマ社より『ダンス・イン・ザ・ファーム〜周防大島で坊主と農家と他いろいろ』を刊行。