- 2022.04.29
- 島の音、土の声【第六回】
【第六回】「おいしい肌触り」
「おいしい」シリーズその5、タイトルを書いてみたものの「そんなものあるのだろうか」とさっそく考え込んでしまっています。
「舌触り」としたら少しは想像しやすいでしょうか。素材レベルでいえば個人的な王様は…うなぎです。蒲焼きで出合うあの最高のフワフワモワモワが脳を両手でゆするかのごとく、直撃してきます。ですがあれはどうも普遍的なものではなく、関東風の蒸しが入っているからだとか。関西風が好みの方からは「あれのどこがおいしいの」と言われ、イラつきとともにバトルになったことがあります。
かつて僕は好きすぎるあまり、浜名湖のうなぎ養殖業者に問合せして生きたうなぎを送ってもらい、飼っていました。名前をギロッポンと付けました。音楽制作部屋の水槽からよく飛び出し、数時間経って気づいて水槽に入れると、また元気に泳ぎ回る。驚きました。生命力みなぎる体に宿るフワフワなのです。
そういう意味では「おいしい肌触り」、それもまた王様はうなぎとなります。ボディのヌルヌルはあらゆる障害を光の速さですり抜けていく。今ではもうやりたくないことなのですが、友人の結婚式の余興で「何もない空間から物が出現、あら不思議!」な手品を披露しました。時空を超えて出てきたのはギロッポン含む三匹のヌルヌル。それが予想外の動きで手から次々とすり抜け、グダグダ。そしてバカ受け。僧侶になった今、生き物を愚弄したその行為を悔いています。許してくれ、ギロッポン。
かつて護岸工事が施される前は、その辺の川でよく獲れたというこの魚。生まれは遥か南洋で、産卵場所が長らく見つからなかったといいます。この神秘の魚は養殖も容易ではありません。2009年に天然ウナギの卵31個がマリアナ海溝沖で採取され、さらに2011年に147個の卵が発見されたというとんでもないニュースが駆け巡り、東京大学では「鰻博覧会」が開かれました。当然、僕も足を運び、卵を目に焼き付けました。絶滅に瀕する今、拙僧は口に入れるを想像するのみ。またたくさん生まれてきておくれ。
中村明珍(なかむらみょうちん)
1978年東京生まれ。2013年に東京から山口・周防大島に移り住む。
島の農産物の通販、オンライン配信やイベント企画も手がける。
2021年ミシマ社より『ダンス・イン・ザ・ファーム〜周防大島で坊主と農家と他いろいろ』を刊行。
-
- 2024.05.12
- 閉店のお知らせ
-
- 2024.04.15
- LINEポイントカードについて
-
- 2024.04.15
- 閉店のお知らせ