- 2022.10.25
- 島の音、土の声【第十二回】
【第十二回】田んぼの効能2
前回は、人が田んぼをつくって、そこに生き物がやってくることに驚いた、その一端を記しました。自然と人間社会は別々のようでいて、完全に関わりあっている。「お米を栽培する」という人間の都合が、何かの生き物の棲み家にもなり、逆に何かの生き物の都合が、私たちの生活の土台にもなっている事実の不思議さがたまりません。
さて、田んぼ。水田は「治水」「灌漑」の意味をもっていることが挙げられます。「水田には畔があるので、まるでプールのように雨水を一時的に溜めることができます。このことが、大雨で下流の川が増水するのを抑えることにつながると言われています。(中略)しかも土砂がながれだすことをおさえることも考えられます」(国土交通省 中国地方整備局HPより)。
自然そのままの形でいけば、山から流れ出す水はドバっと川筋をつたって海へ向かう。ところが田んぼがあることでその流れが段々と伝わり、水と土砂の流れが緩和されていく。田んぼが緩衝地帯になっているイメージは想像に難くありません。国土交通省のHPでは「棚田は『自然のダム』と言われる」と指摘されていますが、厳密には人間が棚田をつくっているので、「人間を含む自然」というのがポイントです。
四国では特に香川県が、兵庫県と並んで「ため池」の数が全国随一なのだそう(『社会的共通資本と川』より)。少雨をカバーする、水田のための池。香川の「満濃池」は日本最大のため池として有名ですが、それを修復したとされるのが、わが祖・空海。上記の本では、なんと稲作と灌漑の技術の伝来に仏教の僧侶が深く関わっているというのです。
ちなみに、池周辺にある「まんのう公園」では毎年ロックフェスが開かれていますが、僕も何回か出演しました。ある日のステージでは、出演前に僕はパンツを脱いで裸になり、代わりに黒いガムテープを股間にぐるぐる巻いてステージに立ちました。すると想像とは違い一曲目の数秒も経たないうちに尻の割れ目に沿ってキレイに破けました。ガムテープの品質の良さが花開く。しかし最後の一音まで誰にも気づかれなかったのが逆に悲しみをたたえています。

中村明珍(なかむらみょうちん)
1978年東京生まれ。2013年に東京から山口・周防大島に移り住む。
島の農産物の通販、オンライン配信やイベント企画も手がける。
2021年ミシマ社より『ダンス・イン・ザ・ファーム〜周防大島で坊主と農家と他いろいろ』を刊行。