マガジン

2023.01.31
島の音、土の声 【第十五回】

潮の流れのように

 周防大島といえば、この数年いろいろな出来事がありました。行方不明の子どもの発見とスーパーボランティアの登場、逃走犯の潜伏と地元でのコミュニケーション、ドイツ船が橋と水道管に衝突して40日間の断水。これらが3ヶ月連続で起こったのがまた驚きです。そして2023年、また一つ事件が起こりました。「海上自衛隊の船が周防大島沖で座礁」の一件です。
 遠方に住む方たちから「大丈夫ですか?」と僕にも連絡が続きました。いつも通る道路から愛媛方面に目を向けると、大きめの船が停泊していました。空からは取材のヘリの音も聞こえます。「やっちまった」……船内の人の心境を想像すると胸がきしむようでしたが、それと同時に「あのあたりって意外と浅いのか~」とびっくりしました。いとも簡単に船が通れそうなので、海中の起伏の豊かさを思わずにはおれません。
 その頃『「美食地質学」入門』(巽好幸著)を読んでいました。マグマ学者による、日本列島の食がどうして育まれたのかを「地球のメカニズム」から学び味わうという壮大な物語です。醤油や出汁といった調味に関する営み、そばやうどん、日本酒やワイン、野菜、アユやカニにいたる様々な考察のなかで「瀬戸内海の魚介」についても解説されていました。瀬戸内の魚はなぜおいしいのか、そもそも「旨さ」とはなにか。タイやトラフグ、タコ、アナゴ、サワラ、アイナメ、オコゼ、タイラギ、赤ウニ……その旨みには瀬戸内海の起伏が生み出す「高速潮流」が関係しているといいます。旨みのもとになる成分は、代謝や分解によって筋肉で作られるのですが、その筋肉が、強い流れの潮で育てられます。その潮は、海の地形と月との関係が生み出しており、そして瀬戸内海の地形は、ユーラシアプレートの下にフィリピン海プレートが斜め方向へ沈み込むことでできた「しわ」といえるのだとか。愛媛でもその沈み込みと連動した「中央構造線」が東西に通っています。プレートが4つもぶつかりあう日本列島は世界でも相当独特な場所で、地震や火山、温泉をもたらす「プレートテクニクス」という活動は、なんと太陽系のなかで地球だけにしかないそうです。それは「水」があるせいなのだとか。なんか、すごくないですか?

中村明珍(なかむらみょうちん)
1978年東京生まれ。2013年に東京から山口・周防大島に移り住む。
島の農産物の通販、オンライン配信やイベント企画も手がける。
2021年ミシマ社より『ダンス・イン・ザ・ファーム〜周防大島で坊主と農家と他いろいろ』を刊行。