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2022.12.26
島の音、土の声 【第十四回】

第十四回 ヤギまっしぐら

 この連載で何度か登場している、わが家のヤギ。年齢は2歳、名前を「こむぎ」といいます。小型のヤギで毛はうす茶色、背中に一筋の模様がのびているのですが、それは「トカラヤギ」という種類の特徴なんだそうです。鹿児島県のトカラ列島に由来するヤギということですが、生まれてすぐに瀬戸内の別の島からやってきてくれました。普段は家の敷地内にいて、よく一緒に散歩に行きます。リードの手を離しても勝手についてきますが、だいたい道端で何か植物を見つけては食べて立ち止まっています。「道草」のプロなのです。
 「まあ、犬かと思ったらヤギ!?」「食べ物に困るじゃろう?」
 散歩中に、道行く人、車で通りかかる人によく話しかけられます。じつは食べ物についてはほとんど困ったことはありません。そこら中に生えているものを食べるからです。ただ、「選り好み」をするのです。一緒に暮らし始め、はじめて理解しました。うちのこむぎは、こちらが食べてほしいと思う「雑草」の類はほとんど食べず、どちらかというと「樹木」の類の葉っぱを大変好みます。時には立ち上がって喰らいついていきます。おかげで植えたブルーベリーの苗木も丸裸になりました。木の実も大好き、米も大好き。秋になると、家の前の道路にはドングリがたくさん落ちるので、散歩も僕に全然ついてきてくれません。ドングリを食べまくり、まるで掃除機のように吸い込んでいきます。ボリボリカリカリ、おつまみを食べている音がするので僕でもそのまま食べられそうな気がしてきます。おいしそう。でも本当は食べ過ぎるとお腹に溜まってよくないらしい。1日でひとつかみくらいの量がいいと言われました。だめだ、ひたすら食べている。僕が天日干しした米にも突進し、米をむさぼるように食べるので叱ると今度は反撃してきます。
 ある日、僕は買ったばかりのお気に入りのニット帽を失くしてしまいました。すると、翌日ヤギ小屋で発見。一回しかか被っていないその帽子が無残な姿に食べられていました。グスン。またある日、愛用していた樹脂製のサンダルがこむぎにやられました。片方はかじられて見つかったのですが、もう片方が1年くらい経っても未だに見つかりません。あなた食べた?

中村明珍(なかむらみょうちん)
1978年東京生まれ。2013年に東京から山口・周防大島に移り住む。
島の農産物の通販、オンライン配信やイベント企画も手がける。
2021年ミシマ社より『ダンス・イン・ザ・ファーム〜周防大島で坊主と農家と他いろいろ』を刊行。