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2023.01.31
めいどのみやげ 【その十五】DJ・エディター 水本アキラさん

誰もが一度は考えたことがあるだろう、明日世界が終わるとしたら何を食べたい? そんな究極のメニューを“めいどのみやげ”とここでは呼ぶこととし、その人をつくってきた「食遍歴」を探ります。

 幼少期からご飯はもとよりおやつまでほとんどが手づくりだったという環境で育った水本アキラさん。母は専業主婦、祖母も小料理店を営んでいたことがあったそうで、ベースとなるのはもちろん母の味。大学進学と同時に上京した際も、母お手製のレシピノートが手渡され、それを元に下宿で水餃子の皮からこねるという学生時代を過ごした。お正月にはおせち料理と称した、水本さんの好物ばかりが詰まったお重が届く。「そもそも子どものご馳走と言われるものが好きなので、中身 は唐揚げ、ハンバーグ、エビフライなどです。今でも妹家族の家にはお正月になるとクール宅急便で届けているそうです」と、なんとも母の愛情が詰まったエピソードが数多ある。そして水本さん自身も自炊するようになったのはとても自然な流れで、 18歳から約35年間、ほぼ毎日3食をつくってきたこともあり「特にカルボナーラは最初こそ失敗もたくさんあったけれど、今ではかなり自信があります」と言う。
 水本さんの食の世界が一気に広がったのは、DJとして全国を飛び回るようになった30歳頃のこと。「各地で迎えてくれる人たちに、高いお店ではなく地元のおいしいと思うお店に連れていってほしいとお願いしたんです。すると名物と言わずともおいしいものが各地にある、視野が広がった気がしました」。そう なると、DJ同士での情報交換も活発に。DJパートナーでもあった常盤響さんとも、二人で行ったほうが各地のいろんなお店を開拓できるんじゃない? という理由から共に全国各地を回ったそうだ。以来行ったことのない県は4県ほど、それ以外の都道府県ではDJの傍ら地元の名店を渡り歩いてきた。実は食から受けた人間の感覚や価値観を変える経験は、現在の水本さんのスタンスに多大な影響を及ぼしている。書く文章や自身でセレクトした音楽が、興味をもっていなかった人の琴線に思いがけず触れることを願って向き合っているそうだ。

そんな水本さんのめいどのみやげは”食べ物というより、シチュエーション“とのこと。「気のおけない仲間たちと一丁羅をめいっぱい着こんで、臭いや汚れを気にせずガスコンロの煙が充満したお店で焼肉をしたい。肉に絡んだ松山ならではの甘めのタレをちょっと焦がしながら、焼けた肉を白ごはんにバウンドさせて。それから前日あんなに焼肉食ってたのになぁって言われながら人生を終えたいんです(笑)」。

水本アキラ (みずもとあきら) 
1969年7月1日生、松山生まれ。東京造形大学デザイン学科I類卒業。SHOP 33(吉祥寺)勤務、高円寺のレコード店「 Manual Of Errors」店長を経て、1998年からフリーランスに。現在は松山を拠点に、音楽、文学、映画、写真、デザイン、アートといったサブカルチャーを主なフィールドに、企画、編集、映 像、デザインをトータルに手掛けている。

イラスト:山森めぐみ
漫画家・イラストレーター。愛媛県西予市出身。
双子の姉の方。新刊『憑きそい』発売中


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