にじとまめ。

にじとまめ。

代表 田中直子さん

 

西条の恵みをお菓子やパンに

米粉スイーツで誰もが選べる美味しさを

 

 

愛媛県屈指の米どころでもある、愛媛県西条市。西条市立小松小学校の近くにある住宅街の一角で、「にじとまめ。」は西条産米粉を使った、グルテンフリーの焼き菓子やパンを製造販売しています。週3日ほどのオープン日には県内外から「にじとまめ。」を目的にお客さんが来られています。元は小麦粉を使ったパン屋としてオープンし、今のような業態になった経緯、これからの取り組みについてもお伺いします。

 

―お店を始めたきっかけを教えてください。

2014年に国産小麦と天然酵母を使ったパン屋としてオープンしたのですが、2019年ぐらいから自分自身の体調が悪くなって、小麦アレルギーの反応が体に出始めました。

 

―それはびっくりでしたね。
パンや製菓をやっている方の中ではよく聞く話ではありますが、まさか自分がそうなるとは思いもしませんでした。その時、一番最初に思ったのは、今来てくださっているお客様に対して申し訳ないという気持ち。今後、提供できなくなるという歯がゆさと、どうしようもなさでした。当初はごまかしながらやっていましたが、私の場合、蕁麻疹が出て肌がボロボロになっていくので、自分を犠牲にしながらも続けていくことの意味ってなんだろうと考えたんです。一生薬を塗り続けないといけないのかな、ボロボロになっていく肌を見て、このまま自分を犠牲にしていくのは違う気がすると思い、そこから米粉に着目したグルテンフリー専門店の方向性でいこうと、舵を切ることにしました。

住宅街に突如現れる看板。奥は小松小学校

―お客様の反応はいかがでしたか。
実は私自身も気持ちが追いついていかない部分があったので、徐々に小麦から米粉へ、パンから焼き菓子へスライドしていきました。勘のいいお客様には「パン屋さん辞めないよね?」と聞かれたこともありましたが、私の身体を心配してくださるお客様も結構いらしてくださって、ありがたい気持ちでいっぱいでした。

 

―小麦と米粉では扱いが全然違うのでしょうか。
ありがたいことに西条は米どころでもあり、このあたりも水田がたくさんあります。四国山地からの伏流水が豊富ですし、水がとてもキレイです。米粉用として育てられたお米を収穫し、きめ細かく製粉されたJAえひめ未来さんの米粉を使わせてもらっています。

 

2021年4月に店舗をリニューアル

―お店の名前の由来、「にじとまめ。」について教えていただけますか。
実は私、子どもの頃からパン屋さんやお菓子屋さんに憧れていたとか、製菓の学校に通っていましたというタイプではなくて、ほんとに、ひょんなことからこの仕事を始めることになったんです。お店の名前、「にじとまめ。」は私の2人の子どもを象徴しています。上の子は難病で生まれて2歳までしか生きられないと言われていましたが4歳10カ月で生涯を終え、下の子は今14歳です。上の子の病気が分かってからは入退院を繰り返し、ようやく家で過ごせるようになってからも24時間看護が必要な状態でした。呼吸器などの機械がいっぱい付いていたので、どうしても側にいないといけない。そのときの自分の楽しみがパンを焼くことだったんです。
それから子どもが亡くなり、お見送りをした火葬場からの帰りに道いっぱいの虹がバーって出たんです。それを見て、もう大丈夫だなぁっていう気持ちと、お母さん一生懸命生きてね、みたいなメッセージをもらったような気がして。私自身、悔いのない毎日を過ごそうということをその時に誓って今に至ります。「
まめ」の方は下の子がすごい豆が好きだったんです、ただそれだけなんですけど(笑)。

クッキー、パウンドケーキ、スコーン、カヌレなど約30種類が並ぶ

―グルテンフリーの米粉専門店へ舵を切ってからはいかがですか。
最初は看板商品のカヌレを目がけて若い女の子たちがたくさん来てくださったのですが、最近はいろんな世代の方が来てくれるようになりました。お客様とコミュニケーションをとるときにグルテンフリー生活をしているんですか? とお尋ねするようにしています。何もしていないですっていう方とグルテンフリーしている方が6対4ぐらいの割合で、徐々に増えている印象です。アレルギーでどうしても除去しなければいけない方もいますし、食生活に気遣ってできるだけグルテンフリーをという方など、実践している理由や度合いも違いますが、食の選択肢が増えて嬉しいと言っていただけます。カヌレから始まり、焼き菓子の種類を増やしていき、最近ではパンも増えてきました。また、最近はプラントベースの商品も始めました。バターの代わりにココナッツオイルや菜種油を使うなど、ギルトフリー(罪悪感のない食事)と言われている分野でもありますが、今後はブランドベースにも着目していきたいです。

看板商品のカヌレ。外はカリッと中は米粉らしいモチモチ感

―その他に、これからやってみたいことはありますか?
地域のものを生かした商品開発に着目していて、地元の小松高校の生徒さんと一緒に、伝統的な製造技術が国の重要無形民俗文化財に指定されている発酵茶「石鎚黒茶」を使ったパウンドケーキをつくりました。地元にいいものがいっぱいあるのに、なかなか着目されていないというのはよくあることだと思うんです。生産者の方たちの熱量や想いを聞くと、私たちにも何かできることがあるんじゃないかと感じました。また、最近は店舗を使って、にじとまめ。スペシャルサロンと題して、お客様へ直接メッセージを伝えていける場ができればと思い、月1度程度の開催をしています。「米粉×発酵」をテーマに第1回は石鎚黒茶の試食会&講習会を行いました。パンやイチゴのスイーツをつくるなど、さまざまな取り組みをしています。

左は小松高校の生徒と共同開発した石鎚黒茶のパウンドケーキ

―やりたいことが盛りだくさん。若い世代との取り組みは刺激にもなりますね。
私は、特定の何かを食べられない人がいる世界ではなく、みんなで同じものを食べられる世界をつくっていくお手伝いができればいいなと思っています。この間、小麦アレルギーをもっていて将来の夢が料理人という子に出会いました。現実問題を考えると、自分の健康に対して危険と隣り合わせの職業だと思いますが、自分も小麦のアレルギーをもちながら今の仕事を続けています。アレルギーをもっている人たちに対して職業の幅が広がるといいなと思いますし、弱点を強みに変えられるような世の中になってほしい。それが食に携わる私の役目なのかなと思っています。