LOOP

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心を満たす「食」を伝える

固定概念を崩すシェフ3人組の挑戦

 

写真左から 金枡知輝さん、水口 亮さん、西元京香さん

経歴、年齢、得意なこともそれぞれの異なる料理人チーム「LOOP」。料理人として長年、食の現場を経験してきた代表の水口さんは、生産者が懸命に育てた生産物が破棄されることを目の当たりにし、食品ロスを減らしたいという想いから活動を始めました。規格外品はサイズが小さく形がいびつかもしれないけれど、味は全く変わりません。そんな農作物の救済をしつつ、味も抜群な、愛媛県産食材を使用した加工品の開発・販売を行っています。3人が目指す、料理に携わる人たちの新たな可能性についてお話を伺いました。

 

 

 ―まずはじめに、3人のつながりについて教えていただけますか。

水口:二人とも僕の後輩なのですが、以前勤めていたホテルに新入社員として入ってきた後輩シェフが金枡です。そのホテルには13年ぐらいいたのですが退職し、料理を楽しむことをメインとする宿泊施設、オーベルジュに転職し料理長を務めていました。西元は、そこの後輩です。2021年に伊予市のふたみシーサイド公園がリニューアルする際、レストランをやってみないかとお声かけをいただき、こちらに来ました。その際に二人に声をかけて、一緒にやってもらうことになりました。

 

 

―なるほど、水口さんを軸にお二人がつながったと。金枡さん、西元さんはどのような経歴ですか。

金枡:実家が以前、旅館業をしていて、幼い頃から家族が食の仕事をしているのをずっと見てきました。手伝いもしてきましたし、いざ進学となった時に自分にできることはなんだろうと考え、料理の道へ進みました。その後、水口さんと出会ったホテルの仕事をして、退職後はイタリアンレストランの料理人として10年近く働いていました。

西元:私は食べることがすごく好きな子どもで。幼い頃は親が仕事で家にいない日が多かったのですが、 できあいのお惣菜やお弁当などが続くと飽きてくるじゃないですか。それなら、自分でつくってみようと思ったことが、料理をするようになったきっかけです。小学生の頃にレシピを見てつくり始めたのですが、やってみるとすごく楽しくなってきて。進路を考えた時には料理の道だと思い、専門学校へ入りました。でも、料理ってたくさんのジャンルがありますよね。どこを目指そうかと思った時に、中華は調理道具が重くて力がいるかなと、和食は歴史や伝統を大切にしますが、どこか固い感じもあったので、私は洋食でいこうと思いました。

 

 

―調理の仕事は、師弟関係や縦社会の厳しい世界だというイメージがありました。

西元:食品を扱う責任という意味での厳しさはもちろん必要ですが、仕事をする上では「楽しく料理をしたい」という気持ちがあります。専門学校時代に訪れたオーベルジュでは、フレンチやイタリアンという形にとらわれず、和食の要素なども取り入れ、愛媛の食材を使った唯一無二の創作料理が出てきました。食べに行った時にここで働きたいと思い、実際に就職することができました。その時の料理長が水口さんです。もちろん、厳しくご指導いただくこともたくさんありますが、ただ怒られているだけでなく、そこには、後輩に成長してほしいという愛情を感じます。そんな水口さんが新しい事を始めると聞いて、ついて行きたいなと思い、一緒に仕事をさせてもらっています。

 

 

―レストランで働き始めた3人ですが、そこから「LOOP」の取り組みがどのように始まったのでしょう。

水口:以前から取引のあった農家さんや知り合いの生産者から、商品として出荷できない規格外品や食品ロスの話を聞いていて、それがずっと心の中でモヤモヤしていたんです。その話を二人にもしたら、興味があると言ってくれて。そのタイミングで、ネギ農家をやっている「ぐうふぁーむ」の本宮秀亮さんと知り合い、畑を見せてもらうことになりました。すると、出荷できる商品の規格から外れた約2割は商品にならず、すき込んで肥料にしていると聞きました。出荷できなくても、それを刻んで調理をしたら味は一緒じゃないですか。勿体ないな、と思い、市場に出荷できないネギを引き取って商品化してみようしたのがスタートです。

 

 ぐうふぁーむ 本宮秀亮さん

 

愛媛県松前町の岡田地区で祖父の代から農業をやっていて、就農して5年目になります。 主にネギ、里芋、お米をつくっています。畑の広さはおよそ6反ほどです。「LOOP」さんとの出会いは、生産者×飲食店のマッチングツアーでのこと。太さが足りなかったり、白い部分が短いなど、市場で値段の付かないネギは畑の堆肥にしてしまうのですが、味は変わらないのに規格外のものを「もったいない」と言ってくれて。僕たちにとっても、そこに価値を見出してくれるのはありがたいことだし、win-winの関係として、それが美味しい加工品になるのなら嬉しいことだと思います。経済や流通の仕組みの中で、多くの食品ロスや廃棄が行われていますが、今まで見えていなかったところに光を当ててることを、心強く思います。

 

 

水口:第1弾は愛媛の食材とフードロスを掛け合わせて、「真鯛ねぎ味噌」をつくりました。洋食のシェフ集団なのに和食? と思うかもしれませんが、まずは多くの方に親しみのある素材や味、愛媛らしさで勝負してみようと思いました。甘みが詰まった白ネギを直火焼きにして真鯛、味噌と一緒に丁寧に煮込んでつくっています。もちろん、私たちが細かい配合まで考え抜いています。あつあつご飯の上に乗せて、ご飯のお供に……というシンプルな食べ方も良いですが、「LOOP」では、私たち料理人だからこそ提案できるアレンジレシピを公開しています。松山どりと規格外のネギ、シイタケを使った「とりそぼろ味噌」とも合わせて、ぜひお試しください。

 

レシピ詳細は、「お知らせ」から

 

 

―「LOOP」や水口さんのインスタグラムでは、美しく美味しそうな写真が並んでいます。

金枡:水口さんのインスタは、めちゃくちゃかっこいい料理が並んでいるんです。この人に学ばせてもらったら間違いないなと思いましたし、今でもホレボレします。水口さんはロゴやパッケージのデザインをつくったりもするんですよ。
水口:実は子どもの頃から絵を描くのが好きで、画家や漫画家に憧れていました。もちろん、僕よりもっと上手な人はたくさんいて、その後、色々と経験したのですが、自分の中にある「何かを伝えたい」という気持ちを抱えて料理人になりました。無我夢中で目の前の料理と向き合い、何百、何千と同じ事を繰り返す修行期間というのは決して無駄ではないですし、コンテストに出た経験も糧になっていると思います。しかし、仕事を長年する中で、自分の中にある「美」をお客さんに届けたい、という気持ちが大きくなってきました。

僕たち3人は、年齢がそれぞれ10歳ほど違いますので、経験や考え方も異なるところはありますが、チャレンジに対して「面白いね」と言い合えたり、意見交換ができるところが良いところだと思います。美味しい料理を提供することはもちろんですが、つくっている僕たちが楽しくしていないと、それは本当の意味で、いい料理にならないと思うんです。僕は心がちゃんと入った料理を届けたい。見た目に「美しい」という意味だけでなく、人間性が表れるようなあったかい物を、仲間とともにつくっていきたいです。

 

―自分たちが楽しく仕事をすることで、お客様にもより良いものが提供できるという考えが、3名とも合致しているのですね。

水口:そうですね。そして、愛情をかけて育てられている食材に出会うと、僕たちもその思いを継いで大切に調理をしないと、という気持ちになります。食材としての魅力はもちろんですが、僕らは生産者の方の人柄にも惚れていて、そこに助けられている部分がたくさんあるので、バックグラウンドも知ってもらいたいと思い、SNSで発信したり、試食販売会でお客様に魅力を伝えたり、小さな努力を重ねています。

 

―愛媛らしい土地の魅力、生産者の魅力をどう感じていますか。

水口:魚介は瀬戸内の恵みが目の前で獲れますし、水がよく気候が優しいので、お野菜はいい味になりやすい気がします。四国山地に降り注いだ雨が川をつたって海に流れ、そこで育った魚をいただく。また海からの水蒸気が雨になって、田畑に降ってそこで野菜が育つ、それこそが「LOOP」ですね。目の前にある豊かさ、美味しさを伝えたいです。

西元:私は食べることの楽しさや大切さを伝えたいと思います。仕事が忙しいと食べる時間を短縮する人が多いと聞きます。お腹が膨れたらいいとか栄養が取れたらいいとか。それは調理師としてちょっと悲しいと思っています。誰と食べたのか、誰に作ってもらったのか、どういう時に食べたら幸せを感じるとか、そういう感情も含めて栄養になると思っています。好きな人たちと集まって食べるご飯はすごく満足感があるし、あとで思い返しても、あの時楽しかったって思いますよね。そんな食事がどんどん増えていったら、幸せな社会になると思うんです。

 

―「LOOP」の活動として、「伝えること」をとても大切にしているんですね。今後のビジョンがあれば教えてください。

水口:料理人のキャリアアップや成功の形というのは、どこかの料理長になるか、自分でお店をもつか、ですよね。それだけじゃない新しい成功の形、可能性を探りたいと思っています。厨房を飛び出してイベントを企画したり、生産者さんやさまざまな職種の方とつながりをもったりしながら、新商品をつくってみたいです。自分自身がワクワクしないと、人の心を動かすものはつくれないと思うので、現場を見ること、お客様と対話をすること、アイデアを持ち寄って夢を描くことをしていきたいです。そして、手軽に美味しい物が手に入る時代、料理人を目指そうとする人が減ってきていますが、子どもたちが調理師やシェフってなんか面白そうな仕事だなって思ってもらえるようになりたいなと思っています。