愛媛海産

株式会社 愛媛海産

代表取締役社長 大塚康仁

取締役 企画開発部長 蟹江絹代

 

 

鮮度と美味しさにこだわり

瀬戸内・しまなみの恵みを次世代に届ける

 

 

しまなみ海道を臨む、愛媛県今治市で魚介類を主にした製品を製造する「愛媛海産」。瀬戸内海、来島海峡という恵まれた海で獲れる地魚をはじめ、地域の食材の鮮度と旨みを大切に、原料、製法にもこだわった「瀬戸内産 天然魚のうまいもん」をつくり続けています。地元の海の幸とともに約45年、事業を続けてきた大塚康仁さん、そして蟹江絹代さんに時代の流れとともに感じる海の変化、そして次世代へ向けた商品づくりについてお話をお伺いしました。

 

―まずは会社の成り立ちについて教えてください。

大塚:「愛媛海産」は父が昭和54年に立ち上げた会社です。当時はいわゆる乾物屋のような海産物を扱う会社で、今治の百貨店にテナントとして出店し、昆布や数の子、鮭やタラコなどを小売りやギフト用として販売していました。その中でバイヤーさんと、今治から全国に発信できるものをつくりたいという話になり、地場の魚を使った商品開発がスタートしました。

例えば干物というのは、原料がたくさん獲れた時に冷凍をしておいて、小出しにして製品化するのが一般的ですが、我々は目の前の海で新鮮な魚が獲れます。一度、魚を冷凍してしまうと、どうしても品質が落ちてしまうので、生の魚を加工してそのまま製品化までしようというスタイルが始まり、今でもそのやり方を受け継いでいます。

 

―お父様から仕事を引き継いで事業をやると、若い頃から思っていたのですか。

大塚:そんなことは思っていませんでした(笑)。サラリーマンをやっていましたが、成り行きでこの会社へ入り6、7年は父と一緒に仕事をしていました。そんな折、父が急に倒れたので35歳の時に社長になりました。当時はたくさんの問屋さんとお客さんとしてのお付き合いがありましたが、激動の時代の中で、当時お付き合いをしていた問屋さんはほとんど無くなってしまいました。

 

―それはどうしてでしょうか。

大塚:みなさんが気づかないうちに流通の仕組みや消費パターンが変わっていったのです。かつては一次問屋があって二次問屋があって、二次問屋さんが地元の商店やスーパーに卸すという仕組みでしたが、地場のスーパーも問屋さんも徐々に無くなりました。食品の流通の流れがあっという間に変化し、「愛媛海産」も販売のチャンネルが当時とはガラッと変わりました。

 

―どのように流通の大変化期を乗り越えたのでしょう。

大塚:地元で売っていくことが難しくなるだろうと見越して、東京から販売をする地盤を固めていきました。生協や専門店、百貨店ギフトとして、瀬戸内・しまなみの味を届けていこうと。

 

―そこに気付き、いち早く舵を切ったのですね。その勇気と行動力がすごいです。

大塚:それは今治という土地柄が影響しているかもしれません。今治はタオルや造船など首都圏どころか世界を相手にしている経営者がたくさんいます。そのような方々の背中も見ていますので、地元の素晴らしさを生かしながら外に向けて商売をしていく取り組みを始めることに迷いはありませんでした。

 

―素材となる魚介類については変化を感じていますか?

大塚:かつては「魚が獲れすぎて余っている」というところから加工品の製造や開発をしていましたが、年々、漁獲量は減少しています。イイダコなんて、目の前の海でたくさん獲れていましたが今や希少な高級品です。サヨリや太刀魚も少なくなりました。

 

―瀬戸内といえば真鯛ですが、タイはどうでしょう。

大塚:全体的な漁獲量は減っていますが、潮流が複雑で強い瀬戸内海では身がしまって美味しい真鯛が獲れます。「愛媛海産」では年間百トン近く取り扱っています。しかし加工品として真鯛は歩留まりが悪いんです。骨が太くて頭も大きいので、身にすると30%ぐらいしか取れません。身だけを残そうと思うと、捨てなければならない部分がとても多いのです。

 

蟹江:せっかく新鮮で美味しい魚があるので、現場ではそれを無駄にしたくないという声もあり商品開発に生かしています。例えばタイのアラで出汁をとったり、たまごを明太子風にしてみたり。

 

―魚卵を生かすという発想は驚きです。

大塚:タイもですが、鱧も魚卵が取れます。まずは明太子スパゲッティ風にするパスタソースをつくりました。これであれば一般の方にも馴染みがあるのではと。次はタイの魚卵を炙って明太子にしました。魚が貴重になっているというのもありますが、できるだけ無駄にせず、すべてを使い切りたいという気持ちがあります。

また、燃料の高騰や市場価格の低下、後継者不足など、漁師さんにとっても厳しい時代になってきています。魚が獲れなくなってきたことは、環境の問題や地球温暖化など、たくさんの要因があると思うのですが、私たちにできることとして、希少な原料に付加価値を付けて販売し、少しでも長いこと漁師さんに仕事をしていただけるようにしたいなと思っています。

 

蟹江:せっかくこの今治で事業をしていますからね。海の恵みを最大限に生かしながら、みんなが循環できるようにしたいですよね。そのためには商品開発が大切ですし、パッケージデザインなど、瀬戸内・しまなみの海の恵みをお届けしている、というのが「伝わる」ことが大切だと思っています。

 

―パッケージを見ただけで、何の商品か分かるということですね。

蟹江:例えば飲食店のメニュー名を見て、味が想像できること美味しそうだと思うことはとても大切だと思います。中身は食べ物ですから、パッケージがおしゃれなのはいいけれど何なのか分かりにくい、というのは避けたくて、ネーミングも含めて想像しやすい見た目であることを大切にしています。

 

―また「愛媛海産」のすごいところは、できる限り化学調味料や保存料を使っていないところです。

蟹江:余計なものを入れないという考えは、開発当初からあります。例えば味付けのタレをどこかから仕入れようと思うと、無添加というのはなかなか難しい。それならば、自社で醤油と砂糖とみりんを混ぜてつくれば何も入れる必要はないですよね。自宅のお料理みたいな考え方で挑めば、そんなにややこしいことはないんです。一回、調味料をつくれば、それを他の商品にも活用できますし。

 

大塚:一般的に添加物を入れるというのは、単価を下げるためにする場合が多いんです。砂糖を甘味料にしたり、みりんをみりん風調味料にしたり。でも、私たちはせっかく新鮮な素材で食べものをつくっているのですから、健康や美味しさに手間をかける価値があると考えています。お客様からは、「ギフトでもらって食べて美味しかったから、他の方への手土産としてまた買いました」という声を聞きます。いくら見た目が良くても、健康にいいからと言っても、やはり「美味しかった」がないと、続かないですよね。美味しさにこだわりながら、魚はもちろん野菜など新たな出会いとの組み合わせで今後も新製品をつくっていきたいと思っています。